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「関西ゆかり」とはさまざまな形態での「ゆかり」であり、『どこかで春が』(作曲者・百田宗治が大阪府出身)、『春の唄』(作詞者・喜志邦三が堺市出身で、歌詞中の「市場」は西宮北口界隈の市場のこと)など、ライヴではHAMORI-BEによるトリヴィア的解説がつく。そしてこの日の白眉は、前・後半のそれぞれの半ばあたりに配された、2曲のソロ。前半は中川さんの『さっちゃん』(作詞者・阪田寛夫が大阪市出身)。『さっちゃん』の歌詞はすごい。よく知られた1番から3番までいずれも「さっちゃんはね」、「ほんと」それに「だけどちっちゃいから」という共通の言葉が用いられ、ゆえに小さなこどもにとっても覚えやすい。しかしよく聴くと、この「ほんと」という語にはワンコーラスごとにそれぞれ別の意味があり、そんなことに気づいてしまうとさらに、この短い童謡は、出会い(1番)、交流(2番)、別れ(3番)という、大げさに言ってしまえば人生の基本的営みが、簡にして要を得て表現されているのがわかる。かくも目から鱗がなのは、ほかでもない中川さんの歌ゆえ。歌唱に顔の表情も加わわり、3つのコーラスをそえぞれ歌い分けた。いや『さっちゃん』おそるべし。この日のソロ2曲を小説にたとえると、『さっちゃん』が珠玉の掌編小説ならば、小原さんの『月の沙漠』(作曲者・佐々木すぐるが兵庫県出身)は大河小説。この曲の作詞者による挿画はよく知られているが、それを知る人はその挿絵の、『アラビアのロレンス』を観たことのある人はどこかのシーンの、誰もが何らかの砂漠の記憶の映像を媒介にして聴いたに違いない。絵を観るように、物語を聞くように歌を聴く。『月の沙漠』は、小原さんの歌唱の特質にぴったり。朗々たる歌唱を滔々たる大河(小説)の流れにたとえるゆえんです。加えてこの曲の持つエキゾチズムを強調したピアノの伴奏のヴァージョンが妖艶なほどで、この演奏のあらゆる要素が別世界への誘いでした。 PR |
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